FRaU (フラウ) 2009年 09月号 [雑誌]
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誰がどんな本が好きで、どんな思い出があるのか、といった特集の雑誌はついつい買ってしまいます。

今月号のFRAUの特集の中に、「恋愛の本を持ち寄って」という対談がありました。タレントの光浦靖子さんと文筆家の山崎まどかさん、歌人の穂村弘さんの3人が、それぞれおすすめの恋愛本20冊を持ち寄って語っています。
ということは全部で60冊もの恋愛本が紹介されているわけで。こういうのは女性誌ならではだよね。圧巻。

しかし自分のことを考えてみると、そもそも恋愛が苦手というか、映画にしても本にしても、恋愛テーマは避けてきたものだから、「おすすめの恋愛本は」と言われても全然思いつきません。

でも、不思議なことに、私の数少ない恋愛経験と本は切り離せないのです。

そんなわけで、「本と初恋」についてエッセイを書いてみました。私の恋にまつわる思い出の本とは・・・





「読まれなかった本」

 有賀先輩と出会ったのは私が中学1年生のとき。生徒会選挙の準備を行う、期間限定の委員に私は選出された。学年で男女1名ずつが委員となり、投票について告知したりポスターを作ったり、毎日遅くまで学校に残った。同じ委員会内で1つ上の有賀先輩は、よく私をかまってくれた。というより、誰に対しても分け隔てなく接する人だった。傍から見ると優等生である私の頭をぽんぽんと叩いて「バカだけど頑張っているなぁ」と言ってくれた。先輩の冗談は優しくて、なんだか元気になれるのだった。

 生徒会選挙が終わると、その委員会は解散した。毎日顔を合わせていた先輩と会わなくなった。妙にさびしくなってしまった。

 2年生になってからのある日のこと。友達と一緒に帰ろうと学校を出たとき、図書室の窓から有賀先輩が見えた。カウンターの中にいるということは、先輩は図書委員になっていたのだった。「本を借りるんだった。」と言って、友達と別れ、学校に戻った。図書室もそろそろ閉館の時間だった。

 もう勉強している人もいない。本を選んでいる人もいない。図書室の中は有賀先輩と私の二人きりだ。私は自分が何をしたかったのかよくわからなくなってしまった。とにかく、一番奥の棚へ向かっていき、一冊の本を取り出した。黄色い表紙、海外の作品らしかった。タイトルは覚えていない。その本を、有賀先輩のいるカウンターに出した。

 先輩は黙って最終ページを開き、日付のスタンプを押した。そして、私に本を差し出しながら
「これ、釣りの本だけど、いいの?」
と聞いた。

 釣りの本。思いもよらないことだった。なんとなく海外文学の香りがするデザインやタイトルからは、全くうかがい知れなかったのだ。

 しかし、釣りの本だと知っていて読みたいと思って借りたのでなければ、なぜ借りたと言うのだ。とっさに「あ、はい。」と答えた。知っているに決まっている、という顔を作ろうとしたがうまくいかなかった。妙に恥ずかしくなって、逃げるように帰った。

 返却期限までの2週間、私はこの本を借りた言い訳を、手紙に書いては捨てた。「私は先輩のことがずっと・・・」

 結局、私は黄色い本の中身を読まなかった。所在なさげに佇んでいるだけだったその本を、返すときには別の図書委員がカウンターにいた。
 手紙も完成させることはないまま、夏休みになった。先輩とはそれきりだ。

 あれはどんな本だったのだろう。









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