仕事柄、インタビューすることは多い。書籍等の原稿にするため、取材先を探してインタビューに行くこともあるし、小冊子やホームページのライティングにもインタビューは欠かせない。

ライターの仕事で一番難しいのは、インタビューなのではないかと思う。
いくら文章がうまくたって、インタビューがまずければ、いい原稿にはならない。私にとってインタビューは一つの壁である。私にはインタビューの技術がないのだ。

『聞く技術・書く技術』(小田豊ニ)によると、新聞や雑誌にインタビュー記事を書いている有能な記者や編集者であっても、「インタビューが上手くできない」と感じているという。インタビューはやはり難しいものであるらしい。

インタビューが上手いとは、どういうことなのだろうか。まず、「インタビュー上手」と言われている人はどこがすごいのか考えてみたい。黒柳徹子である。

明治大学教授の斎藤孝氏は黒柳徹子のことをこう評する。
「相手のよいポイントをほめて、話を次に展開していくやり方が上手だ」(『質問力』)
フリーライターの永江朗氏は「徹子の部屋はインタビューのお手本である」と言う。(『インタビュー術!』)

黒柳徹子











脳科学者の茂木健一郎氏をゲストに迎えた「徹子の部屋」から一部見てみよう。
______________

黒柳「子供に勉強しろ、勉強しろって言ったって、ダメだって先生は書いていらっしゃるじゃないですか。それはどうしたらいいですかね。させるのには。」
茂木「あのね、褒めるアスリートにならなくちゃいけないって僕はよく言うんですけど」
黒柳「褒めるアスリート。」
茂木「つまりどういうことかって言うと、子供が何かいいことやったら、その瞬間に褒める。機を逃さず。一週間後に、あのときおまえ良かったねって言ってもダメなんです。」
黒柳「今すぐ言う。」
茂木「もう、見逃さず、今お前、すごい」
黒柳「すごいっ!すごいっ!すごいっ!」
茂木「すごい!これができると大変いいです。つまりね、人間の脳の中にはドーパミンという物質があります。ドーパミンが出ると・・・」
______________


見事なオウム返しである。
相手の言葉をそのまま繰り返すのが「オウム返し」で、これはけっこうよく使われる技だ。キーワードを繰り返してもらうと、話しているほうは「わかってくれている、承認されている」と感じ、話しやすくなる。話したいことが整理される、という効果もある。私もよく使う。

しかし、黒柳がすごいのは、その速さだ。「打てば響く」ような速さでオウム返しをしている。相手の言葉を繰り返すだけなのだから簡単だろうと思うかもしれないが、実際やってみると、なかなかこうはいかない。
このスピードだから、話が盛り上がっている感じになる。「そうそう、そうなんだよ」とノってくる。
茂木健一郎は、「本当に頭の回転が速いですねぇ」と感心していた。

もう一つ、別の部分。

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黒柳「脳のためには、先生、早起きでいらっしゃって。」
茂木「夜寝ている間に脳は、前日の体験を整理するんで、朝起きたときというのは整理されて非常にいい状態なんですよ。クリエイティブなことをやるには朝が一番いいんですね。」
______________

一見、これが質問なのだろうか?というような進め方である。
黒柳は「知っていること」を口にする。これが非常に重要なことなのだが、事前にゲストのことをよく調べているのである。「徹子の部屋」では、質問したいことを書いたメモをテーブルの上に置いている。これは本人の手書きだそうだ。

質問の仕方はこうだ。
「なんでも、あなたは〜だったそうじゃないですか。」
「最近は〜も、おやりになって。」
「それで、周りの方に〜って言われたんでしょう?」
知っているけれども、ゲストの言葉で話させ、さらなる情報を引き出そうとしているのだ。

「ほんとにねぇ」「それはそれは」「そうでしたわねぇ」
相槌を打ちながら、意外な話が飛び出たりすると、大きくリアクションする。

黒柳のインタビュー法は、相手を「承認」して聞き出すインタビューと言える。


タレントやスポーツ選手などに数多くインタビューしてきている友人は、「インタビューがうまくいったと思うときは、事前の準備が十分で、それが相手にも伝わったときだ」と言っていた。相手が、「このインタビュアーは自分のことをよく調べてきてくれているな」と感じると、やはりスムーズにいくのだ。

これは何を意味するか。
私が考えたのは、2つだ。
「知っているから、いい質問ができる」ということと、「よいインタビューは、聞き手と語り手の信頼関係から生まれる」ということだ。

「知っているから、いい質問ができる」の「知っている」とは、「相手がどういう人か」に限らない。テーマについてもある程度知識が必要だ。
専門家に話を聞く際に、素人が質問して原稿にすればわかりやすくなる、と考える向きもある。これは間違いだ。
永江朗はこれに関して、以下のように言っている。

そもそも素人や門外漢では、なにをどう聞いていいのかもわからないし、専門家が話してくれることのどこが重要なポイントなのかも分からない。(中略)話を引き出すためには、インタビュアーにはそれ相応の勉強と準備が必要なのだ。インタビュー記事は、インタビュアーの能力以上のものにはならない。(『インタビュー術!』p.31)


相手について、テーマについてよく調べる。そして、知っていることを、質問する。知っているけれど、好奇心を持って聞く。「それでどうなったんですか?」知っていることでも、驚く。「えーっ!そうなんですか!」
これは、わざとではなくて、常に新鮮な気持ちを持ち続けるということである。
インタビューのとき、質問者のほうが知識を見せつけたり、わかったフリをしたりするのが一番良くない。

であれば、「あなたのことはちゃんと調べていますよ」というのは相手に伝わらなくてもいいのでは、という気がする。しかし、これが意味を持ってくるのは、「よいインタビューは、聞き手と語り手の信頼関係から生まれる」からだ。心理学的用語で言うと、ラポールだ。初対面の相手でも、できるだけ早く信頼関係を築き、短い時間でも実りあるインタビューにしたい。そのためには、「あなたに興味がある」と最初に伝えてしまうのがいい。「ファンです」とか「調べてきました」とか言うとわざとらしいが、「あなたは本の中でこうおっしゃっていましたね」「あなたは○○がお好きだそうですね」と、最初のほうの質問にさりげなく入れる。で、これがなるべく、ちょっと調べただけで誰でもわかるようなことでない話がいい。
「この人になら、話しても大丈夫だ。正しくわかってもらえそうだ」と思ってもらうのである。

聞き書き作家の小田豊ニは「すべてのインタビューは、“聞き手”と“語り手”のコラボレーションによる一つの作品」と言っている。インタビューは、二人で作り上げるものなのである。たとえ質問項目が全く同じだったとしても、聞き手が誰かによって、作品は変わるだろう。関係性はとても重要だ。

こういったことが、天才的にその場でできてしまう人もいるのかもしれない。
しかし、私のような凡人は、とにかく事前に準備をし、かつ、新鮮な気持ちでインタビューに臨むことが重要だ。

それから、自分がインタビューしている様子を録音し、テープ起こしするのはとても勉強になる。文字にしてみると、反省点がたくさん浮かび上がってくる。
「質問が抽象的で、相手が答えにくかったんだな」
「相手がまだ考えているのに、まとめてしまったな」
・・・
正直、つらい。自分の質問のところは、文字にしたくない。でも、これはとてもいい上達法であるようだ。おかげで私もいくらかは、上達していると思う。(まだまだ、反省だらけだが)

さて、このへんで整理しよう。
「インタビュー上手になるにはどうしたらいいのか。」

その答えは、事前準備で相手とテーマについてよく知ること、信頼関係を築く努力をしながら新鮮な気持ちで質問すること、録音して反省すること。

3つめの「録音して反省すること」は、インタビューを仕事にしたい人、仕事にしている人以外にはあまり関係ないかもしれない。しかし、最初の2つは、日常のコミュニケーションでも十分役立つと思うが、どうだろう。

プロとしては、話し手だけでは生み出せなかった作品が、聞き手が加わることによって生まれる、というのを目指したい。



<参考図書>
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