NHKの「佐野元春のTHE SONGWRITERS」は、言葉や音楽が好きな人にとってシビれるいい番組であって、とくに七尾旅人(ななおたびと)さんの回は、いろいろなことを考えさせてくれました。


20110711七尾旅人



旅人さんが福島に行って作った「圏内の歌」は、心地いいメロディと歌声、ギターの音に超ストレートな歌詞がのっかって、魂が揺さぶられ、涙が出てきてしまいます。


圏内の歌
詩・曲 七尾旅人

離れられない 小さな町
私たちが 育った この町

どろんこで 遊んだ後
のぞきこんだ 水辺に うつる月

激しい雨 屋根を濡らす
放射能が 雨樋を 伝って

庭を濡らす 靴を濡らす
あの子の 野球ボールを濡らした

子供たちだけでも どこか遠くへ

何年も 何年も
おばあちゃんに 聞かされた 寝物語

ここらへんの 子供たちは
みんな知ってる やさしいお話

子供たちだけでも どこか遠くへ 逃がしたい

離れられない 愛する町
生きてくことを決めた この町

まるで何も なかったよに
微笑みを交わす 桜の下

子供たちだけでも どこか遠くへ 逃がしたい
どこか遠くへ 逃がしたい

離れられない 小さな町

離れられない 小さな町

離れられない 小さな町






聴講している大学生が、
「歌詞が出てこないときはありますか?」と質問をしました。


旅人さんのこたえが、衝撃的でした。

「歌詞は、いつでも出てきません。ぼくは詩人ではなく、歌手なんです。
とるに足りない拙い言葉でも、どう発音するかに興味があるんです。」


言葉の選び方ではなく、発音の仕方だと言うのです。

どんな背景があり、どんな部屋でどんな人が言うのかを想像して、発音する。


私はこれを聞いてハっとしました。

なぜ旅人さんの歌にこんなに感動するのか…。

発音には、その人のエネルギーがのるということなのでしょう。言葉の発し方に、その人の生きざまが滲み、それを聞き手は感じ取るのでしょう。


これは、文章で言うと「文体」にあたります。

私も実は、昔から言葉の選び方というより「文体」に興味を持ってきました。(言葉の選び方も含んでしまうのだけれども)

文体に、その人があらわれるのです。

その人の生きざまが滲むのです。



でも、「発音」はもっとすごいと感じました。

文字にはできないことができる。はるかにエネルギーがのる。



離れられない 小さな町

離れられない 小さな町

離れられない 小さな町



同じ言葉の羅列も、旅人さんの歌になると、感じ方が全然違う。


そして大事なことは、発音は常に時間軸とともにあり、過ぎ去った発音はもう取り戻すことができません。


こういうとき「音楽には勝てない」と思ったりします。
コピーライターの端くれでしかない私が、こんなことを言うのはヘンなのはわかっているけれど。



聴講している大学生は、「エネルギーを感じた」という感想を言っていましたね。
テレビを通して感じるエネルギーでさえすごいのだから、場を共有していたら、そりゃあすごいだろうと思います。鳥肌が立つのではなかろうか。



何にせよ、人の心を動かす「生きざま」でなければ、技巧をこらした発音だろうと文体だろうと、エネルギーはのらないのだと思います。



七尾旅人ホームページ