Eテレで、「日本人は何を考えてきたのか」というシリーズをやっています。

録画しておいたものをちょっとずつ見ているんですが、すごく面白いです。
1月20日は福岡伸一さんが西田幾多郎についてナビゲートするので、とっても楽しみ。)

第7回は、「魂のゆくえを見つめて〜柳田国男 東北をゆく〜」と題し、作家の重松清さんが民俗学者柳田国男の思想を追って、東北を旅していました。

重松清さんといえば、最近私はこの本に感動していたところで。

希望の地図
希望の地図


3.11のあと、重松さんが被災地に何度も足を運び、取材して書いたドキュメント・ノベルです。重松さんはもともと、田村章のペンネームでルポライターをやっていたんですよね。この本には、田村章というフリーライターが登場します。
ああ、ルポルタージュの人なのだなぁと、その粘り強く綿密な取材にも感銘を受けたのでした。

その重松さんが、被災地を訪れながら柳田国男の思想を追い、鎮魂と記憶の伝承という課題に取り組むというのが今回の番組です。

とくに印象深かったのが、柳田国男の代表作「遠野物語」99話から「死者との和解」について考えていったことでした。

「遠野物語」99話は、こんな話です。

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福二という男は海岸の田の浜に婿に行ったのだが、先年の津波で妻と子を失った。
生き残った2人の子と元の屋敷の場所に小屋を作って住み1年あまりたった。
夏の初めの月夜、福二は便所に行くために起きた。離れた場所にあるので、渚を歩いていると、霧の中から男女二人が寄り添っているのが見えた。女はまさしく妻だった。思わず跡をつけてしばらく行き、名前を呼ぶと振り返って女は微笑んだ。男を見ると、やはり津波で亡くなった同じ里の者だった。福二が婿に行く前に妻が心を通わせたと聞く男だ。妻が「今はこの人と夫婦なの」と言うので、「子供はかわいくないのか」と聞くと顔色を変え、泣いた。
悲しく情けなくなって足元を見ていたら、男女はそこを立ち退いて見えなくなった。追いかけようかとしたが、妻は死んだのだと気づいて、夜明けまで道で考え、朝になって帰った。

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*この文章は以下の本より、私が意訳しています。
柳田國男 [ちくま日本文学015]
柳田國男 [ちくま日本文学015]



赤坂憲雄(学習院大学教授) :「いま被災地で、幽霊との遭遇の話はあちこちで語られています。それは生きている人にとってどういう意味を持つのだろうかと考えたとき、『死者との和解』なのではないかと思いました。震災によって時間は断ち切られ、もう戻ることはできません。そこで凝固してしまった関係の記憶を解きほぐすことができないんです。だからこそ、幽霊というかたちでも、会いたいんだと思います。言葉を交わしたいのです。」

福二さんは、妻への疑いを持ったまま、妻を亡くしてしまった。

重松:「福二さんは奥さんのことが好きで、現世では一緒になっていた。でも、亡くなったあとの世界で、奥さんが本当に好きだった人と夫婦にしてあげたわけですよね。奥さんの心を我がものにできない苦しみを抱えながらも、あの夜に出会ったことで、福二さん自身も救われたのではないでしょうか。救いとゆるしの物語なのですね。現代でも必要なことだと思います。」


死者はどこにいくのか。魂はどこにいくのか。

柳田国男の他界観について語られていきます。柳田は、家や田を単位にして祖先の霊となり、丘の上から見守ると考えます。

それから、もう一つ印象的なシーン。

宮城県南三陸町志津川にある防災対策庁舎を訪れた重松さんと赤坂さんは、その防災対策庁舎にある祭壇に向かって手を合わせているおじさんを見ます。

おじさんはまず、そなえてあるペットボトル飲料を一口飲み、祭壇に向かって掲げました。
それから帽子をとって手をあわせ、丁寧に右、真ん中、左とお辞儀をしました。

重松:「いま一番宗教的な作法をおじさんがやったような気がします。」


おじさんは、ペットボトル飲料を一緒に飲んでいたのです。亡くなった方々と一緒に。

それは、死者とともに生きている、という感覚でした。


これって実は、日本人が昔から持っていた感覚なのではないか……。

おじさんの仕草に、私は少なからぬ衝撃を受け、その背後にあるものに畏敬の念を抱いたのでした。



重松:「死者とともに生きるというのは、一般的な言い方をするなら、記憶を持ちながら生きるということだと思うんですね。我々は3.11の記憶をどんなふうに持つのか。これから考えなければなりませんね。」



このシリーズ、書籍化もされているようです。

日本人は何を考えてきたのか 明治編―文明の扉を開く
日本人は何を考えてきたのか 明治編―文明の扉を開く


日本人は何を考えてきたのか 大正編―「一等国」日本の岐路
日本人は何を考えてきたのか 大正編―「一等国」日本の岐路




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