日曜日に、話題の「会田誠展:天才でごめんなさい」に行ってきました。

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日本の現代アートといえば、この人!というくらい有名で人気のある会田誠氏なんですが、私はこれまでちゃんと作品を見たことがありませんでした。

昨年、Chim↑Pomの『芸術実行犯』(面白いです、この本)を読んで、「なんか会田誠っていう名前をよく見るなぁー。」と気になり始めていました。どうやらスゴイ人らしい、と。

芸術実行犯 (ideaink 〈アイデアインク〉)
芸術実行犯 (ideaink 〈アイデアインク〉)


Chim↑Pomは、現代美術家の会田誠さんとの出会いがきっかけになって生まれました。結成は2005年です。会田さんは当時日本で最もラディカルに日本の本質やタブーを攻めていた作家です。モチーフはエロ・グロ・戦争から、田舎や都市の問題など、とにかく日本特有のリアリティをアートの文脈で作品化していました。その分かりやすさと面白さで、会田さんの人気はサブカルチャーやオタク、文学界などアートを超えた現場にまで広がっていきました。


今回の個展では、デビュー以来20年以上にわたる作品と新作合わせ約100点を見ることができます。
すごかったです。面白かった。

一つひとつ丁寧に見て、意味を考えたりなんかしちゃうと(精神が)もたないので、全貌をバーっと見る感じで回るのがいいですね。

新作の「電柱、カラス、その他」は大作。

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《電柱、カラス、その他》
2012年
撮影:渡邉修
Courtesy: Mizuma Art Gallery


美術史家の山下裕二氏はこう言っています。

新作《電柱、カラス、その他》には久しぶりに戦慄しましたね。本当にすごい作品。100年後には国宝になりますよ。電信柱が連なる構成は長谷川等伯の《松林図》を参照して、松の枝振りをちぎれて垂れ下がった電線で再現したり、見事です。
(森美術館公式ブログ イベントレポート:会田誠とは何者か?”天才”の正体を探る!(5)より)



よく見ると、ちぎれた指や目玉、セーラー服などをカラスがくわえています。

それに気づいたときのギョッ。



「灰色の山」もすごい。

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《灰色の山》
2009-11年
アクリル絵具、キャンバス
300×700 cm
タグチ・アートコレクション蔵
制作協力:渡辺 篤
Courtesy: Mizuma Art Gallery


山水画風ですが、正体は世界中の背広族の屍。デスクやパソコンなどと一緒につまれて山になっているのです。

制作に2年かかっているそうです。

「滝の絵」はやはりいいですねぇ〜
会田誠の描く美少女って、本当に素晴らしく美少女なんですよね。
このノスタルジックかつファンタジーな感じ。

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《滝の絵 》
2007-10年
アクリル絵具、キャンバス
439×272 cm
国立国際美術館蔵、大阪
Courtesy:Mizuma Art Gallery


このあたりは、見る人みんな唸っちゃうような傑作なのでは。


あと、「あぜ道」も良かったです。女学生の髪の分け目がそのまま道になっちゃっているという。

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《あぜ道》
1991年
豊田市美術館蔵、愛知
Courtesy:Mizuma Art Gallery


こちらは作品保護のため、2月19日までの展示だそうです。ギリギリ見ることができてラッキーでした。


さて、今回の「会田誠展:天才でごめんなさい」はツイッターで話題になっているポイントが2つあります。

・児童ポルノ問題
・ツイッターの転載問題



まず、児童ポルノ問題。

全裸の少女の手足が切断され、首輪をつけられている「犬」シリーズをはじめ、一部の作品が「児童ポルノ」にあたるとして、ポルノ被害と性暴力について考える会が森美術館に対し、抗議文を提出し、撤去を求めるなどしています。

ただ、これらの性的表現を含む刺激の強い作品は「18禁部屋」にあり、「不快に感じる方は入場に際して事前にご了承ください」といったことを繰り返し伝えています。

18禁部屋に入って作品群を実際に見た感想は・・・

確かに衝撃的ですが、会田氏自身が言っているように「性的嗜好の満足や悪意の発露」の表現とは感じませんでした。まぁこのへんは、人によって感じ方は違うでしょうね。

森美術館は、撤去するつもりはないそうです。

彼の作品は戦争、国家、愛、欲望、芸術などについて、しばしば常識にとらわれない独自の視点を開示しています。そして諧謔(かいぎゃく)と洞察に満ちた会田芸術の本質は、彼の作品の総合的な紹介によってのみ、理解することができると考えています。
 美術館は、美術を通して表現される様々な考え方の発表の場であり、それによって対話と議論の契機を生み出します。本展に関しても、多くの異なった意見を持つ方々が議論を交わすことが重要であると思われます。また日本の良さは、そのような個々人の多様な意見を自由に表現・発表できる社会となっていることではないでしょうか。


参考として、みんなの意見。
BLOGOS:議論「会田誠氏の展覧会に市民団体が抗議…」"ポルノ"と"アート"の線引きは?
togetter:PAPSが森美術館『会田誠 天才でごめんなさい』展に抗議


不快だ、不快じゃないという話をしても意味はないでしょうが、「アートとポルノの線引き」に関する議論はいいですね。


それから、ツイッターの転載問題。

「モニュメント・フォー・ナッシング IV」という作品は、原発関連のツイートを大量にコラージュしているものです。

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《モニュメント・フォー・ナッシング IV》
2012年
Courtesy: Mizuma Art Gallery
撮影:渡邉 修


会田氏はこの作品に関してこう言っています。

タイムライン上の断絶や対立に驚きまして。その前でみんな呆然と立ち尽くしているというのが今の現状ではないかと。それをそのまま形にしてみるというようなもんです。個性や技術をひけらかすほかに、時代のアーカイブに協力するような美術があってもいいかな、と。
(『美術手帖』2013.01)


この作品の対面に位置するのが、こちらです。

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ショボイ写真で申し訳ない・・・。今回の個展は、こちらのおにぎり仮面のみ、撮影OKとなっています。

作品タイトルは「考えない人」
ロダンの「考える人」を思わせるポーズですが、金色のウンコをしており、そこに座っているおにぎりです。

おにぎり仮面は、「無為」「無我」の象徴。

つまり、賛否両論が飛び交う世界を前に、まったく判断をしない「無我」の「おにぎり仮面」が、悟りの境地に達している構図(椹木野衣〜会田誠ロングインタビュー『美術手帖』2013.01)なのです。

なるほどなぁー。
このスペースもすごく面白かったです。

ツイートは読めるもの読めないものあるんだけど、ちょっと見るだけでも本当に賛否両論で、立ち尽くしたくなってきます。


これが、ツイートした本人に許可をとることなく使われているということで、怒っている方々が。

togetter:『会田誠展:天才でごめんなさい』において大量のツイートが無断転載・有償公開されている件

会田誠氏は問題ないと判断して行ったそうですが、どういう展開になるんでしょう。

批評性の高い現代アートの場合、許可を取らずにやっちゃう!っていうのはけっこうあると思うんですが。
本人に許可を取っていると、批評性が失われていってしまうので・・・。

岡田斗司夫先生あたりに聞いてみたいです。
(もう言及しているかしら?まだ見つけられていません。)

ちなみに、togetter:『会田誠展:天才でごめんなさい』において大量のツイートが無断転載・有償公開されている件の中で、「転載でごめんなさい」とあったのが笑えた。ふふふ。


あと、なんで私は会田誠展についてこんなに力を入れてブログ記事を書いているのか自分でもよくわからなくなってきましたが、『美術手帖』のロングインタビューから、「なるほど」と妙に納得した部分を紹介します。

美術批評家、椹木野衣さんの解釈がすごいなーと。

会田さんには「我」の時代があり、それが「我々」へ、「本質から表面へ」と移行することで「いろいろなデザイン」となった。基本的にはそれが今に至るまで芸術をめぐる様々なる意匠で変奏されている。けれども、原点にあった「我」は消えてしまったわけではなく、「駄作」を通じて「無我」「無為」といった形で回帰し続けている。けれども、会田さんが「天才」と評されるときに持ち出される大作は、実は「いろいろなデザイン」のほうなのであって、それは時間と体力さえかければ、今後もそこそこできてしまう。他方、会田さんの本当の「天才」は「無我」のほうにあるのだけれど、それは必然的に「駄作」にならざるを得ない。そう考えたとき、「我」でも「無我」でもない「我々」にこそ、新しい展開があるのではないか。


誰もが唸る天才的な作品と、子供の落書きのような作品(駄作)が同居している会田誠の作品群を見て、意外と、子供の落書きみたいなほうに心惹かれたりして、それってなんなのだろう、と思っていたのでした。

本当の天才は駄作のほうにあるって、ナルホドなぁと。

美術手帖 2013年 01月号 [雑誌]
美術手帖 2013年 01月号 [雑誌]




とにかく、たくさん刺激を受けました。

六本木ヒルズ森タワーにある、森美術館で3月31日までやっています。

興味のある方はぜひ!






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「会田誠展:天才でごめんなさい」
会場: 森美術館 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53階
会期:2012年11月17日〜2013年3月31日
開館時間: 10:00-22:00(火曜日のみ17:00まで) 会期中無休
入館料(税込):一般1,500円、学生(高校・大学生)1,000円、子供(4歳−中学生)500円