私の仕事は、広告コピーの制作や書籍の執筆等、コピーライティング、ライティングです。

この仕事について、「クリエイティブな仕事でいいですね」「クリエイティブな仕事ができるってすごいですね」と言われることがあります。

今は会社員だけどコピーライターになりたいという人に「なぜコピーライターになりたいの?」と聞くと、「今よりクリエイティブな仕事がしたいから」と言われたことも何回かあります。

広告の業界では「クリエイティブ」という言葉は日常用語。
広告制作物のことを「クリエイティ」と呼びますからね。(ブにアクセントがあります!)

だけど、クリエイティブってなんなんでしょうか?




日本語にすれば「創造的な」という意味ですが、0から1を生み出すとか、常識にとらわれない発想によって新しいものを生み出す、みたいなニュアンスがあるように思います。

感性・センスが重要で、「誰でもできる仕事」ではない、というような。

そういう意味なら、私はクリエイティブな仕事をしているわけではありません。

私は感性で仕事していないし。0から1は生まないし、常識にとらわれない発想をしているわけでもない。

はっきり言って、誰でもできる仕事をしています。

キャッチコピーにしたって、クライアントにヒアリングし、リサーチをした結果を論理的につみあげて作成していくものです。コピーの文章はすべて筋が通っており、何故このコピーになったのか論理的に説明することができるものです。そうでなければいけません。


でも、私はクリエイティブに仕事をしています。

私が考えるクリエイティブとは、
・この仕事の意図
・関わる人みんなをラクにする方法

を徹底的に想像し、仕事の枠にとらわれずに提案することです。


たとえば、AさんとBさんの対談音声をC社から依頼されて原稿にする仕事を例に挙げてみましょう。

まず、対談原稿の意図を考えます。この原稿によって何を目指しているのか。
AさんがC社(PR会社)にお金を払って対談を組んでいるので、Aさんのブランディングの一環であり、Aさんの人脈やファンを増やしたい意図があるのだろうと考えます。(こういう目的ですよねって確認します)

そして、関わる人みんなをラクにする、喜んでもらうにはどうすればいいかを考えます。
関わる人とは、C社の担当者、Aさん、Bさん、そして原稿の読み手です。

私があげた原稿をC社の担当者はどうやって確認し、その次の行動をするだろうか。どういう状態ならもっともラクだろうか。
C社の担当者に渡された原稿をAさんはどうするだろうか。次の行動は何だろう。どうなっていたら嬉しいだろうか。
WEB上でこの原稿を読む人は、どんな行動をするだろうか。どうだったら嬉しいだろう。

これらを想像するのです。

そうすれば、提案したいことはたくさん出てきます。

たとえばAさんの質問とBさんの回答がかみあっていない箇所があるとします。こういうのはよくあることです。音で聞いている分には気にならないんですよね。

これを原稿にするときは、当然、そのまま文章にしてはダメです。
Aさんがこう言っているんだから、そのとおりに書けばいいだろうというのは、クリエイティブでない仕事。

そうじゃなくて、その対話の意図を想像し(Aさん、Bさんのバックボーンを調べれば想像しやすくなります)、ああ、こういう話がしたかったんだなと理解して、それを原稿にします。
言葉を変えたり、補ったりする感じです。

それは、原稿のうえで、「こんな言葉を使ってみたらどうですか?」「こんな質問の仕方をしてみたらどうですか?」とAさんに提案しているのです。

こうやって原稿を作っていると、最終的に確認したAさんは
「あのときうまく質問ができていなかったんだけど、そうそう、こういう流れにしたかったんだよね。そうか、次はこうしよう」と喜んでくれます。
そして「うまくまとめてくれてありがとう」と言ってくれます。

これによって、読み手はスムーズに読むことができますし、C社の担当者も株が上がります。

ほかにも、C社の担当者をラクにするためには、締めきり前に早めに提出するとか、Aさんに渡しやすい形式にするとか、その人の状況を想像しながらいろいろ出てきます。「Aさんの強みを表現するために、次はこんなテーマにしてみてはどうですか?」などと話してみることもします。
C社の担当者はクライアントであるAさんの役に立ちたいと思っていますから、こういう提案は歓迎です。

読者をラクにするには、AさんBさんが自明のものとして説明していない話を補足してあげるとか、とにかく頭に「?」が浮かばないようにどうしたらいいかを考えます。


ある部分では、ライターとして期待されている仕事の枠を越えるときもあるかもしれない。でも、「それはやらなくていいです」と言われたことは一度もありません。

私はこういった仕事のやりかたを「クリエイティブ」だと思っているんです。

あたりまえとも言えるかもしれないけど、プロのライターを名乗っている人でも、実はこうやっている人は多くありません。だから、「また小川さんにお願いしたい」と言ってもらえます。

まかり間違っても、私の発想がすごいとか、独創的だから「次もお願い」というわけじゃないんです。

意図や相手の状況を想像しているからです。


これって、いわゆる「クリエイティブな仕事」だけの話じゃありませんよね。
誰でも、どんな仕事でもできます。



たとえば事務仕事も、掃除もクリエイティブにできるはずなんです。

もし、「会社に誰よりも早く行って掃除をしよう」と考えたとして、
その行動の意図がよくわからなかったり、関わる人をラクにしなかったらクリエイティブではない。

「あの人が早く来て掃除しはじめたから、こっちはやりにくいよなー。自分も早く行かなきゃいけないのかなってプレッシャーだよ」と思う人たいたらダメなんです。

どうしたら関わる人みんながラクになる(喜ぶ)?って考えましょう。

掃除をすることによって、「ゴミ箱はこんな配置にしたらもっと便利じゃありませんか?」とか「みんなで早く来て掃除をしたら気持ちよくありませんか?」とか工夫しながら提案できれば、それは立派にクリエイティブです。


意図や相手の状況を想像するのは、努力してやるというものでもなく、習慣みたいな感じだと思います。
別に難しくありません。

私はよく雑談的に「いま他にはどんな仕事をしているんですか?」「上司ってどんな人なんですか?」と質問しますけど、相手の状況を想像したいというのが大きいです。
「いまこんな大きな仕事を抱えててね〜」と聞ければ、よし、ではこの仕事はできるだけ私が主導して進めてラクできるようにしよう、なんて考えることができるからです。
(もちろん、勝手に進めるのではなく時と場合によって相手に確認したり空気を読んだりしながらです)


「クリエイティブな仕事をしたい」と言っている人ほど、
クリエイティブってどういうことだろう?と考えてみてほしいなぁと思います。