木の椅子ではなく分娩台で、点滴打ちながらいきむこと数回。

赤ちゃんの頭はすぐそこに見えているのに、いっこうに動きません。

呼吸困難になりそうな私をみて、先生は吸引に踏み切りました。

私からはよく見えないのだけど、スッポンのようなものを突っ込んでグルグルと回しています。
赤ちゃんの頭にスッポンをくっつけて引っ張り出すのです。

「あなたがうまくいきんで初めて吸引がうまくいきますからね。頑張って」

「はい」

泣きながら返事をし、痛みの波をとらえていきみました。

「足を閉じない!それじゃ赤ちゃんでられないよ!」
「息吐いちゃダメだよ、とめていきまないと!」

もうパニック状態の私。。
叱られながら何度かいきみました。

吸引の力はものすごくて、ダンナが後ろから私を押さえます。

これまでで最も長くふんばったとき、パカっという感覚があり、その直後にニュルっと物体が出てくる感覚がありました。

そして、ダンナの「おお」という嬉しそうな声。

オンギャー!

血と羊水でドロドロになった赤ちゃんの姿がチラと見えました。

出てきたんだ!
元気に生まれてくれたんだ!

そして、、
嘘のように陣痛が消えました。

ああ!
嬉しい!!

良かった・・・!!

自然に顔がほころびました。

臍の緒がつながったまま、助産師さんが赤ちゃんを私のお腹の上に乗せてくれました。

あったかい。そしてずっしりとした重み。
生き物だあーと思いました。
とても幸せな気持ちになりました。


その後、子宮収縮のための筋肉注射を打ったり、切開した会陰を縫い合わせたり(結局、会陰を切ったのでした。でもほんとこっちの痛みなんて気づかないくらい)という後産がありましたが、陣痛に比べたらまったくなんでもなく、私は嬉しくてしかたありませんでした。


同時に、自分が情けない気分に。

心が折れて、泣き叫んだり悪態ついたりして。なんと情けないのか、、
最終的に吸引分娩になり、赤ちゃんは頭を強く引っ張られて出てくることになったし。
赤ちゃんの後頭部には血の塊があり、頭もすこし変形していました。助産師さんがすぐに帽子をかぶせてくれましたが。

赤ちゃんにも、先生や助産師さんにも申し訳なくて恥ずかしいような気持ちでした。

あとから聞くと、けっこうきつい吸引だったそうです。ラクな吸引もあるのですが、私は骨盤、産道がきつく、かなり力が必要だったと。
でも、吸引でいけると判断して踏み切ったそうです。
これがダメなら緊急帝王切開ということになったのでしょう。

陣痛促進剤もイマイチ効かなかったそうです。
先生は、陣痛微弱になったのはなにが悪いわけでもないと言っていましたが・・・

痛みを本当に受け入れることができないメンタルのせいだったのでは、とちょっと思います。受け入れられていないから、痛みが遠のきがちなのです。痛みよなくなれって念じていると、本当に痛みがひいてしまうというか。
専門的なことはよくわからないけれど。

先生は最後に「よく頑張った。おめでとうございます」と言ってくれました。

助けてくださって本当にありがとうございます。
もう感謝しかないです。

こうして、9月12日の午前3時過ぎに無事ベビーが誕生したのでした。

本陣痛からは約12時間。
でも、自分的には陣痛から丸一日。そして破水からは丸二日という長い闘いでした。


ところで、たまに「出産は気持ちいい」という人がいますが、それはあのパカっ、ニュルっという感覚のことなのだろうなーと思いました。

陣痛はとんでもなく痛いけど、産むときは気持ちいい。
わかる気がします。

産む瞬間が、鼻からスイカを出すかのように痛いわけではないんですね。
突如道ができるように開くんです。で、スルっというかニュルっと出てくる。
これは確かに気持ちいいです。

私の場合は吸引してもらってやっと、でしたけど。


赤ちゃんの臍の緒はダンナが切りました。砂肝を切るような、ジョリっとした感覚だったそうです。
胎盤は見せてもらいましたが、思った以上に大きかったです。
思い切り内臓ですね、あれ。


思い返すにつけ、神秘的な体験でした。
また体験したいかというとちょっと悩みますけど、とにもかくにも赤ちゃんが元気に出てきてくれて本当によかったです。

あ、私が分娩室を譲った方の赤ちゃんも、無事に呼吸できるようになったそうです。よかったよかった。