あまり風が吹きつけない木が安定して丈夫に育つことはない。
木は揺らされるからこそ強くなり、しっかりと根を張るようになる。
風のさえぎられた谷で育った木はもろい。(セネカ『摂理について』)
――『STOIC 人生の教科書ストイシズム』より


 ライターとしてそこそこの年数やってきた中では、逆境とも言える非常に厳しい条件のもとで行う仕事もあった。

明日までに1章分仕上げなきゃならないとか、事情により完全無報酬とか、とにかく怒っているクライアントのところへ取材に行ってほしいとか、ほとんど何も言っていない話を100倍に膨らませてほしいとか。

「無理です」

 無理なのに、期待を持たせるような曖昧な返事をすると、相手にも迷惑がかかる。仕事ができる人ほど、無理なものは「無理」とはっきり伝える。

「文末指定」での奇妙な依頼
 もっとも、難しいことはわかっていても、どうしてもやる必要のある仕事もある。

 なかでも逆境だと感じ、逃げ出したいと思ったのは、文章についてやたらと禁止事項を設定されたときだった。たとえば文末の表現も、一定の表現しか使ってはいけないと指定されたのだ。これは私にとって非常に辛かった。

 〜である。
 〜なのだ。
 〜に違いない。
 〜という。
 〜だろう。
 〜ではないか。

 こうした文末表現は、文章のリズムを作る。試しに、いま読んでいるこの文章の文末を全部変えることを想像してみてほしい。まったく違う印象のものになるはずだ。

 私は文章を書くとき、自分の中にリズムがあって、それに合わせて書いているようなところがある。次はこのリズムだ、この文末になるはずだという感覚があるのだ。それをあらかじめ指定されてしまうと、書けない。

 だから文末指定は本当に苦しかった。頭がおかしくなりそうだった。そもそも、指定する意味も私には理解できなかった。

 しかし、オーダーに合わせて仕上げなくてはならない。自分のリズムを殺して、書いた。「逃げてしまおうかな?」そんな考えが何度も頭をよぎったが、書ききった。その結果、なんとかOKをもらうことができた。

 もうこの条件で書くことはない。だが、私はこの経験によって「リズムで書く」だけではなく、文末の意図をものすごく考えるようになった。「この文末じゃないとダメなんです」と言えるように、しっかり考えて選択することが増えた。

 おかげで文章力が上がったと思う。良い勉強をさせてもらった。



続きは記事をご覧ください。

仕事ができる人ほどよく使う、漢字で「たった2文字」の言葉とは?



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ブリタニー・ポラット
ダイヤモンド社
2024-11-27